「退職するから残っている年休をまとめてとりたい?」「だめだ」とA社に突っぱねられて、Bさんは納得がいかない。転職するためA社をやめることになったBさんは、使っていない年次有給休暇がまだ20日以上あったので、退職予定の一ヶ月先までにまとめてとろうと申請したのだ。
ところが会社は「一か月のうち20日も休暇をとられると、残りの出勤日数は10日たらずで後任の引き継ぎができない」と10日分の休暇しか認めようとしないのである。
「一か月後に退職するんじゃないか。20日も年次有給休暇をとるなよ。全部とはいわない、すべてとることはあきらめてくれといってるんだ」
「年次有給休暇の権利を行使させないのは不当だ。10日しか休めないとしたら、残った10日はどうなる。消滅させてしまうつもりか?」
このケースのような場合、原則として会社は社員が請求するだけの日数を与えなければなりません。
業務の引き継ぎなどであまり休まれては困る場合は、就業規則などの規定にもとづいて買い上げなどの方法をとるべきでししょう。
本来年次有給休暇とは「労働者に賃金を得させながら、一定期間労働者を就労から開放することにより、継続的な労働力の提供から生ずる精神的肉体的消耗を回復させるとともに、人たるに値する社会的文化的生活を営むための金銭的、時間的余裕を保障する」ものとされています。つまり、労働力の維持・回復も主要な目的の一つなのです。
会社としては、辞めることが決まっている社員には労働力の維持・回復を期待する必要もなく、むしろ、残りの期間は休まず出勤して充分な引き継ぎを行なってもらいたいと考えるでしょう。
しかし年次有給休暇は一定の要件を満たすことにより当然に発生する労働者の権利です。この権利を使うことを会社が一方的に制約することはできません。
では、会社は時季変更権を使うことはできるでしょうか。
年休をとる時期が「事業の正常な運営を妨げる」のであれば、会社には「日を変えてくれ」と命じる権限、つまり時季変更権があります。
Bさんのケースのような場合「年休をとられると引き継ぎが充分できない」つまり、「事業の正常な運営を妨げる」から、時季変更権を使えるだろうと考えるかもしれません。
ですが、時季変更権は、あくまでほかの時期には休暇を与えることが前提となっているのです。会社を辞めた人間に休暇を与えることはできないため、退職する社員には、時季変更権は使えないと考えられます。
結局、Bさんのようなケースでも、会社は原則として、社員の請求するだけの日数を与えなければなりません。
ただし、法定の休暇日数を上回る部分があるとすれば、その部分については就業規則などの規定にもとづいて、買い上げなどの方法をとることが可能です。
たとえば労働基準法で定める最低の日数が10日の者に対して15日が付与されているような場合には、5日分を買い上げの対象とすることができるのです。
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