運転手Bさんは休日に交通事故に遭い、全治3ヶ月の重傷を負った。Bさんの勤務先である自動車運送業A社の就業規則では、私傷病による休職は最長で2ヶ月とし、休職期間が満了してもなお勤務ができない場合には退職扱いすると定められている。「クビになっては一大事」と、Bさんは休職期間が満了する日の前日に退院し、翌日から出勤した。しかし、まだけがは完治しておらず、本来の運転業務には就くことはできない。
A社は「これでは休職期間の満了後も勤務不可能」であるとして、Bさんを退職扱いにしようと考えている。
「まだ完治はしていないが、もう十分に働くことができる。ただ、前と同じ業務に就くのはもう少し待ってほしい」
「ウチの運転手はたった8人。3ヶ月も働けないのなら、別の人を雇わねばならない。そのためには、辞めてもらわないと困る」
このケースの場合、就業規則に休職期間を最長2ヶ月と定めてあったとしても、ケガや病気が完治しないことを理由として復職を拒むことは認められません。一定の程度にまで回復しているのであれば、会社はその社員を復職させなければなりません。
しかし、特定の職種につくことを条件に採用された社員は、一般の社員とは異なり、ほかの業務への転換は容易でありませんから、会社にも転換させる義務はないとされます。また特定の職種につく社員が長期間、私傷病で仕事ができない事態になると、一般の社員の場合以上に会社の負担も大きくなることから、会社は「社員による債務不履行」を問うこともできるでしょう。
仕事に関係のないケガや病気(私傷病)で休職した社員が、休職期間の満了をむかえてもまだ完治しない場合、解雇されることを恐れて、まだ体調が十分でないにもかかわらず復職を願い出ることがあります。
そこで、会社がその社員の傷病が完治していないことを理由に復職を拒否できるかどうかが、問題となるのです。
私傷病による休職の扱いについては、多くの事業所で就業規則などに取り決めがあると思われます。そういう定めがあれば、それに従うことになりますが、定めがない場合には、基本的に「従来の業務を通常程度に行なえる健康状態に回復した」時点で復職させればよいとされています。
すなわち、社員が労働契約の本旨に則った労務の提供をなすことができるようになるまでは、会社には、その社員を復職させる義務はないのです。
そこで今度は、どの時点で「従来の業務を行なえるようになった」と判断するかが問題となります。まず、その社員の治療にあたった医師の診断書を判断材料にすることになるのですが、診断書に「復職可能」とする記載があったとしても、必ずしも会社はこれに拘束されるわけではありません。会社は、これをもとに自社の産業医などの意見を聞きつつ最終的な判断を下す権限をもつものとされています。
つぎに、私傷病による休職が長くなり、その社員が復職できないと判断された場合、どうなるかという問題が起こります。
有効な解雇理由の一つに「心身の故障により業務に耐えないと認められるとき」というものがあります。一般的には従前の業務遂行が不可能であることをもって、ただちに「業務に耐えない」とみなすことはできません。その社員がそれまでの業務に就けない場合でも、ほかに就ける業務があるのであれば、それをしてもらえばよいと考えられるからです。
よって、解雇はできないと考えたほうがよいでしょう。
ケガや病気が私傷病の場合には、会社は賃金を保障しないのが一般的ですが、休業している社員は、その間収入がありません。少しでも収入を得ようと休業中の社員が有給休暇を申請してくることがあります。特に、年度がかわり有給休暇の付与日数が増えた場合や、逆に消滅してしまう間際に、申請してくるでしょう。しかし会社は社員に対して、有給休暇の使用は拒否できないからといって、申請どおりに消化させる必要はありません。なぜなら、有給休暇はあくまで労働義務がある日に対して使用できるものであり、労働義務のない休業期間中には使用できる余地はないからです。
多くの事業所では、一定の期間が過ぎてもなお復職できない社員は、退職したものとして取り扱う規定をおいています。
こうした規定をおき、規定どおりの期間が満了しても、なお解雇に準じた扱いをすることとした判例もありますが、基本的には「休職期間満了の事実をもって労働契約の解消(解雇ではなく退職)事由とする規定は有効」とする説が定着しています。
しかし、実際には、当初の休職期間の満了とともに社員を復職させるかどうかの判断を下すことは困難な場合が多いでしょう。
そこで、休職期間の定めをおく場合、併せて休職期間の延長制度も設定し、必要に応じて様子を見るのが妥当な方法です。このケースの場合も、A社としてはいったんBさんを復職させて様子を見るのが無難といえます。
会社は、就業規則に休職期間の定めをおき、手続きと休職期間の満了後の扱いについて詳細にしておくことが大切です。人にはいつ何が起こるかわかりません。 なお、休職期間の満了とともに退職扱いとする場合には、延長制度も設けておくとよいでしょう。いずれにせよ、後々、社員と禍根を残さないためにも、会社として最大限の誠意を感じさせる対応を取れる体制を整えることが大切です。
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