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2020.02.05
懲戒解雇する社員から、先に退職願を出された! ――懲戒解雇予定の社員が退職願を出したとき、退職願は受理しなければならないものか?

事件の概要

ある会社に勤務するAさんは休日に社用車を無断で運転し、相手を死亡させるほどの重大交通事故を起こした。会社は、Aさんを懲戒解雇することとし、30日の予告期間をおいた9月30日をもって解雇ということになっていた。

   同社の退職金規程では、懲戒解雇された人には退職金は支給されないこととされていた。退職金をもらいたいAさんは、なんと「自分は、ほかの支給要件は満たしている。だから解雇日前に自分から退職すればいいはずだ」という理由で、9月10日に辞表を出したのだった。しかし、会社は退職願の受理を拒否。争いとなった。

社員の主張

「私はまだ解雇されていないのだ。私には退職する権利がある。会社は妙な勘ぐりで判断をすべきではない」

会社の言い分

「懲戒解雇が決まっているのだから、今さら退職扱いにはできない。そんな方法で退職金をせしめようというのか」

NC労務より解決提案

このケースの場合、会社としては退職願を受け取るべきでしょう。なぜなら、Aさんには退職する権利があるからです。

しかし、それは「労働契約を終了させる」ということです。ですから、たとえ解雇日前に退職が成立しても、懲戒事由そのものが消えてしまうわけではありません。したがって、会社は退職金を支払う必要はありません。

会社は退職願を受理してしまうと懲戒解雇ではなくなり、退職金を支払わなければならなくなってしまうと考えていますが、会社はAさんに退職金を支払う必要はないのです。

退職願を出しても、懲戒処分は消えない

Aさんは、なんとか退職金をもらおうとして、退職願を出してきたわけですが、たとえ自分から退職しても懲戒処分は消えません。

原則として、期間の定めのない労働契約の場合、会社には社員の退職を拒否する権限はありません。社員が退職願を提出すれば、会社が同意しなくても、退職の申し出があった日から一定期間が経過すれば、退職は成立するのです。「一定期間」とは、通常は2週間、完全月給制の場合は最短で半月から最長で1ヶ月半です。

ですから、Aさんのケースでも、会社は退職願を受理しなければならないのです。

しかし、そうかといってBさんに退職金を支給しなければならないとすると、いかにも不合理な結果となります。

たしかに、Aさんは退職する権利をもっています。しかし、これはあくまで「労働契約を終了させるという権利」であり、退職金不支給の事由があるにもかかわらず退職金をもらえる権利ではありません。

すでに懲戒解雇が決定し、退職金が出ないことが確定している場合には、たとえAさんのように解雇日の前に退職が成立しても、会社は退職金を支払う必要はないのです。現実には退職してしまい、懲戒解雇が行なわれなかったとしても、懲戒事由そのものが消滅するわけではないからです。

ただ、こういうトラブルが起きたのは、会社に懲戒解雇前の退職に関する退職金規程の定めがなかったことも一因と思われます。懲戒解雇前に退職を申し出た社員に退職金を支給しないためには、不支給事由を「懲戒解雇とされた場合、またはこれに準ずる場合にはこれを支給しない」という形にしておくことが必要になります。

懲戒事由が発覚する前に退職したら?

なお、仮にAさんの行為が発覚する前にAさんが退職してしまっていた場合、原則としてAさんには「退職金請求権」があるということになります。

しかし、このままでは「悪いことをしても、ばれる前に退職すればトク」といった不公平な結果を招いてしまいます。

そこで、このケースのような場合、判例では、こう修正を加えています。

社員が在職中に永年の勤続の功績を抹殺してしまうほどの重大な背信行為をしておきながら「これを秘匿して雇用契約解除を申し入れ、契約終了後自己都合退職として退職金請求権を行使することは、社会の正義感、公平感に反するから、権利の濫用」にあたるとしているのです。つまり社員の退職金請求は請求権の濫用となり、会社は当然、支払う必要はない、ということです。

ただし、実際には、不正行為が発覚する前にすでに退職金を支払っていたり、就業規則の規定上どうしても退職金を支払わなければならないような場合もあります。

このような場合で、社員の不正行為によって会社の被った損害額がわかっているのであれば、退職金を支払う一方で損害賠償請求をするという方法も考えられます。しかし、退職金と損害賠償の相殺は原則としてできませんので、頭に入れておきましょう。

予防策

  会社は、懲戒解雇となった社員に退職金を不支給とするのであれば、不支給事由を「懲戒解雇とされた場合、またはこれに準ずる場合には支給しない」という形にしておきましょう。つまり、これは不穏当な抜け道封じです。

  加えていうなら、この不支給規定には、懲戒事案に応じて、一部の減額から全部の不支給まで段階を設けることが望ましいと思われます。

  数年前に比べ、近年は社員の権利を主張する風潮があります。しかし、この中には過度な主張も少なくありません。会社として、不正に関して毅然たる態度で臨まなければ、他の社員に対して示しがつかなくなります。合理的な方法で、相応の制裁を行なうことが必要不可欠です。

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